実家の並びには4軒分ほどの敷地を持つ
豪邸があった。
そこの奥様は母によく似ていて
ときどき町内のことで母と立ち話をしていた。
実家を処分する前に私は挨拶に伺った。
門扉は妙に複雑な鍵で
開けるのにやたら時間がかかる。
どうやらその様子を
玄関のカメラがとらえていて
広い屋敷の奥からでも玄関に間に合うように
計算されていたらしかった。
出てきたのはすっかり高齢になった奥様。
至るところに頑丈な手すりが張りめぐらされていて
ろれつのまわらない奥様はパジャマ姿で
「嫁がいるときにもう一度来て」
というニュアンスのことを私に訴えた。
家族から大切に守られているのだろう
ということは手すりの様子からも伺えた。
お嫁さんは私よりひと世代上の
大変面倒見のいい方で
町内でも評判の良妻。
私は持ってきた手土産を渡さずに帰り
数日後に再訪してお二人にご挨拶した。
他人の老いはあまりにも突然。
なかでも思い出の中の
懐かしい人の老いは
ギャップが大きすぎて
そのときの衝撃は今も鮮明に覚えている。