病院では自分でスプーンを使って
ぐんぐん食べる母だったが
あるとき メインだけ手をつけていなかった。
ごはん(おかゆ)もデザート(ゼリー)も
すっかりきれいになっているのに
どうしたんだろう。
その日はきれいなオムレツで
お皿いっぱいにきれいな柔らかそうな卵が
広がっている。
「食べないの?」と聞くと
「知らない」と答える。
知らない…の意味をよくよく考えて
見たことがないから
食べ方が分からないのか!と気付いた。
「スプーンでこう切ってこうすくってみたら?」
母はしばらく見つめていたが
やがて私に言われた通りに手を動かし
無事口に運ぶことができた。
「おいしい?」
「うん。おいしい」
あっという間にお皿はカラになった。