こころ遊多加な介護へ

暮らしといのち

ただ生きてさえいてくれたら

10年以上前 脳神経外科の医師と

メールでやり取りしていた時期があった。

  

その医師の奥様は一度骨髄提供をしたのだが

皮肉にも数年後に白血病を発症してしまい

ドナーを探す側になってしまっていた。

 

妻がどんどんやせ衰え髪も抜け

無菌室でドナーを待つだけの日々を嘆き

「あんなに健康体だったのに」と

医師でありながら妻の命さえ救えない無力感と

現状を受け入れられないメールが届き続けた。

 

「それでも今生きてともにいることが貴重な時間」

という返信を私は送り続けたのだが

あなたにわかるはずがない と連絡は途切れてしまった。

 

一年ほどたって ぽつりと届いた一通のメールには

「妻が旅立った」ことと

あなたが言った通り

「ただ生きてさえいてくれればよかった」

と書かれていた。

 

私は返信を送ることができなかった。

かける言葉が見つからなかった。