まだ母に認知症の症状が
はっきりとは出ていなかった頃。
毎週実家に様子を見に行っていた私はある日
ピンポンを鳴らさずカギを開けて静かに入った。
昼寝の時間だろうと思ったから。
12月上旬くらいだっただろうか。
冷え込みが始まった頃で
母は毛糸の帽子をかぶり
こたつに入って背を丸くして
正面のテレビをじっと見つめていた。
ついていないテレビ。
真っ暗な画面。
その姿を見たとき私は
慟哭しそうになった。
母の心の底からの
孤独を見てしまったような気がした。
一人ぼっちが何よりも嫌いな人なのに
こんなに毎日一人ぼっちで過ごしているのか。
このままではいけないと本気で思い始めたのは
その頃だった気がする。