東京に住んでいた頃。
年末年始のカウントダウンは
仲間の店に集まって
ひたすら話をしながら
年を越すのが常だった。
いわゆる古臭いファミリー感が
苦手な人がこぞって集い
今宵もオリジナルの関わり方を
この場で見つけて
一瞬の刹那を楽しむぞという
独特の熱気に満ちていた。
ママがサービスで
年越し蕎麦を作ってくれるのだが
毎年決まって日付が変わる。
今年こそはと客がみんなで
「はやくはやく!」と急かすのだが
ママはわざとなのか性格なのか
のんびりゆっくり作っていく。
ああまた日付が変わってしまった。
また今年も間に合わなかった。
急いていた皆の気持ちが
すっかりしぼんだ頃に
お蕎麦が配られる。
「年を越しました蕎麦だな」
誰かの嫌味がみんなに受けて
「本当だ」「年を越しました蕎麦!!」と
ママの顔色を気にすることもなく
我々の間で盛り上がった。
毎年
年越し蕎麦をゆでるときには
「年を越しました蕎麦」のことを必ず思い返す。