こころ遊多加な介護へ

暮らしといのち

駅前の母

都内にいた私の携帯に

病院からくり返し着信。

かけ直すと母の意識がないとのこと。

あわてて戻り最寄の駅を出たとき

目の前を母が横切った。

 

「えっ」

 

どこからどう見ても母である。

服には見覚えがなかったが

その横顔 後ろ姿 歩き方

間違いなく母が歩いている。

 

いや

母はもう何年も病院を出ていないし

ずいぶん前から車いす生活。

でも目の前にいるのは母に違いない。

引き寄せられるように追っていく。

声をかけてみようか…

 

なぜかふと我に返り

「今日は病院はいいや」と自宅に帰った。

 

翌日父を連れて病院に行くと

母は意識が戻り穏やかに眠っていた。

担当の先生がなぜ昨日来なかったのかと

ちょっぴり怒っていた。

 

母はそれから2か月半点滴一本でがんばった。

何日たっても意識はもうろうとしたままだったが

ときには目を開けて反応を見せた。

 

今でもときどき考える。

あのとき駅前の母に声をかけていたら

どうなっただろうか。