母は高齢になってからは
一人で出歩くことはなかった。
必ず父と二人で出かけた。
今振り返ると一人で出かけることが
「できなく」なっていたのかもしれない。
都内に住んでいた私が実家の母と買い物に出たとき
私はそのまま電車に乗ることになり
母は駅前から一人で歩いて帰ることになった。
母は「大丈夫よ」じゃあねとスタスタ歩き始めていたが
私は後ろ姿を見つめて冷や冷やしていた。
一人で帰れるかな
道が分かるかしら
途中で何かハプニングにあったりしないかしら
家に着いた頃に電話をかけて確認する始末。
むろん何事もなく到着していた。
一人で帰るけなげな後ろ姿が
今でも目に焼き付いていて
母が倒れた日に見かけた駅前の幻像は
そういえばあの日の後ろ姿にそっくりだったなと
今頃になって思い出した。