「孫の手ないかな?」
ちょっとだけ背中がかゆいらしい。
面白いのは記憶の共有。
「まえあったじゃないか」と言われて
思い出しているモノはたぶん同じ。
とっくになくなった実家の
玄関の下駄箱の脇にかかっていた
靴ベラなんかと一緒にぶら下がっていた
「あの」孫の手のことだ。
「長い物差しもあっただろう?」
それは母が洋裁に使っていたもので
長い年月が経ち縦半分に裂けていた
1Mを超える長いもの。
母の変なクセの一つで
なぜか本棚の上に乗せてあったのを
父も私も当たり前に覚えている。
それを孫の手代わり思い出すのは
母も父もそんな使い方をしていたから。
どちらも処分したのは私だが
いつどんな風に捨てたのかは記憶にない。
いまだに「あの場所にあった」という
記憶があるという不思議。
それを父と共有しているというのもまた。