母が入院してだいぶ経った頃
実家処分のために
母のものを全部捨てることになった。
母はこだわりが病的に強かったので
私が勝手に捨てるなどと知ったら
血相変えてつかみかかってくる気がして
そこにいるはずのない母の声に
怯える日々だった。
カビの生えた着物から
お気に入りのキーホルダーまで
出所を知っているありとあらゆるものを
私の手でゴミ袋に叩き込んでいく。
「その人が死んだ瞬間に持ち物が全部ゴミになる」
という体験は
相方が死んだとき
被後見人が亡くなったとき
母が帰ってこなくなったとき
そして今度は
父が帰ってこれなくなりそうで
考える前に勢いに任せて片付ける。
何度やってみても
心苦しい重たい気分は変わらない。
「あれどこやったの?」
って帰ってきて言われたらどうしよう。
本人の声が今にも聞こえそうで。