作家・阿刀田高さんの短編ミステリーの一つに
忘れられない話がある。
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娘の結婚が決まり張り切っていた父親が
式の3日前から急に
強い香水をつけるようになった。
当日の結婚式は滞りなく進んだが
スピーチを終えたとたんに父親が倒れた。
来賓の医師が診察したところ
「死後3日経っています」と告げられた。
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といった内容。
これをあのじわじわ迫る筆で書かれていた。
私が学生時代に文庫で読んだくらいだから
かなり昔の作品だったはず。
ずいぶん経って
重ねるように思い出したのが阿刀田高氏のこの作品。
生きていても死んでいても認知症でも
たとえ娘の名前も顔も忘れても
そのことを伝えることも
表現すらできなくても
想いの強さに変わりはないのかもしれないと。