長文です。どうか静かな場所でゆっくり読んでください。
「 もう生きられないと思うあなたに 」 豊田久乃
この世に救いはないと感じて絶望しているとき、この世に味方が一人もいないと思ってしまうのはあなたのせいではありません。
その答えを見つける鍵は「場所」。
トンネリングという言葉があります。閉ざされた暗くて長いトンネルの中にいるような心の状態。心理学用語で「視野狭窄」のこと。ひとつのことにとらわれるあまり他のすべてが見えなくなっていることを言います。
今のあなたは抱えている問題にとらわれて、他の世界が見えていないのかもしれません。
あるいは年齢が若いため、または経験値が少ないために、別の解決策があることや、他にも選択肢があるという事実すら知らない可能性がある。
あなたが今いる世界では、奪い合い競い合い自分だけ良ければいいという人であふれているかもしれない。あなたはその世界でたくさん傷つき、その傷を孤独に癒しながら誰にも気付かれないように隠し続けてきたかもしれません。
あなたの存在が評価されなかったり、あなたという人格が尊重されないこともあったかもしれない。それはただもう場所が悪かった。信頼していたはずの家族や友人や仲間が、実は味方ではなかったと分かったときのショックははかり知れないと思います。
ただ、今いる場所が世界のすべてではないし、目の前にいる人の言うことが絶対正しいとは限らない。
あなたがそこにいることを肯定されないのなら、もうその悲しい場所に戻らないという選択肢もあります。なぜなら「世界にはあたたかく支え合う人が集う場所もある」からです。
信頼関係が築けない人とどれだけ長く関わったところで、心の通い合いは成立しません。かつて親友だった人であろうと家族であろうと同じこと。
口先だけで行動が伴わない人のことは、あなたは忘れていいのです。その人は自分にふさわしい世界で生きています。自分は間違っていない、自分だけ幸せならいいという考え方で混乱のまま生きている。その在り方は恥を知らず古臭く幼い精神性のままなのです。
本来人と人とのかかわりとは、他人であろうと家族であろうと繊細に心をくだいて思いやりを持ち寄ってお互いがゆずり合い努力してこそ成立するもの。その努力をせずに放棄している人と関わっても時間の無駄です。なぜなら他人を変えることはできないから。
だけどもしかしたら、そのことこそがあなたにとって一番大きな悲しみかもしれない。
それに今いる場を出て別の世界を探すことは大変なことだし、あなたが若ければ若いほど、一人で行動を起こすことには困難を伴い、手段や方法さえ分からないかもしれない。
でも時代は今、大きな変化の渦中にあり、もう家の中や会社・学校の中だけで人生が完結する時代ではない。
個として社会の中にピンで立ち、「今ここで」他人に何ができるのか。社会の中でどう在るかどう生きるかどう他人と関わるかが問われる時代。
会社の看板や学校の名前やテストの点数で他人から評価されるのを待つ生き方はもう過去の在り方で、これからは一人の大人として、他人にお互いに敬意を払い、誇りを持ってともに支え合い生きていく時代。
それは決して各人が分断し孤立に向かうことではなく、むしろ個として自分を生きることで他人とまっすぐに関わるようになっていくこと。誰かに従属することで安心しようとすることなく、自分の中に正しい指針を常に持ち続けること。
年齢性別に関係なく、お互いがお互いの持ち味を提供し合い、助け合い支え合っていく時代がすでに始まっています。
一個の人間として利他を本気で生きている人は数え切れないほどいます。
これから関わるべきはそういう意識レベルの高い人たちです。私自身、そういうあたたかい人たちにめぐり合って初めて、これまでの関係性が間違っていたことに気付きました。他人のために尽力し、ともに助け合うことを当たり前にできる人たちがこんなにもたくさんいることに驚きました。
いつかあなたが新しい場所を見つけ、心が安定したその先は、純粋に他人のために与えることができる自分を生きていくことができます。
長い間あなたは苦しんで傷つきながらもその痛みを必死に越えてきた。だからこそ今苦しんでいる人の痛みを理解することができます。越えてきた時間の量だけあなたを成長させ、器を大きくさせ、他人を許し、引き受け、与えられる力に変わります。かつての経験がこれからの時代に別の誰かを支え、ともに生きるための力となるのです。
これは単なる精神論ではなく、考え続けることにより脳神経細胞が伸長し前頭前野の機能が強化されるためです。
どうか今の現実に絶望して生きることをやめる選択をするのではなく
あなたにとって幸福な居場所があることを信じてその世界を探し始めてみて下さい。
トンネルの外に出ることができれば、きっとあなたがまだ見たことも考えたこともない世界が、思ってもいない場所にあります。
まだ見ぬその世界にいるたくさんの人々に出会ってみてください。
たとえば医療現場の専門職や法律家や行政や福祉の世界にいる人かもしれません。お寺や神社や教会といった信仰の世界の人かもしれませんし、毎日「いのち」を扱いながら「いのち」の危険とも向き合っているどこかの分野の専門家かもしれません。専門家とてひとりの人間です。心を大切にし、想いを持って誰かのために生きています。
専門家の素晴らしいところは、かなり早い段階から「誰かのために生きる」決意をして、実際に誰かのために生きる人生を歩んでいるということです。
だから仮にその方が若かったとしても、想いと経験値は深くゆたかさに満ちているのです。
そういう人に一人でも多く出会ってみてほしい。
本当に信頼し合える人間関係が世の中にあるということを実感してほしい。
そういう場があるということを知ってしまえば、これまで悩んでいた狭い世界のできごとが「解決可能」であることも、いとも簡単に理解できると思います。
人は人のためにしか生きられない。
人は人の幸せしか自分の幸せにならない。
いつかあなた自身のいのちを「誰かのために」活かす道が見えたとき
あなたも、そしてあなたのまわりの人も幸せになっていきます。
目の前のできごとにとらわれることなく、あなたが自分らしく快適に生きることができる道を、まだ知らない場所に探しに出かけてみてください。
この世は決して絶望だけなのではなく、間違いなくどこかに救いの道が開いていることを信じていてください。
了