父の部屋で妙な音がしていたので
見に行ってみる。
いつもなら背中を向けて
ろくに人の顔なんか見たことがないのに
その日はベッドに腰かけて
私の顔をまっすぐ見てニコニコと
「何にもしてませんよ」って訴えてる。
なんか隠してるな。
認知症ではないと先生のお墨付きを
もらったばかりだけど
どうもあやしい。
体重計を隠した前科があるからな。
父の性格からいって
もし本格的に呆けたら
ため込みしまいこみ汚物を隠す
という行動になるだろうと予想していた。
なんとなく始まった感。
私が怒らないと分かったのか
種の袋をひっくり返したことを白状する。
そういえば小さな粒が一面に。
「踏んだら自分が転ぶんだよ」と
一緒に掃除機をかける。
さっきのニコニコ顔は
老健にいたときの母にそっくりだった。
あんドーナツで取っ組み合いしたときの
母の「何にもしてませんよ」の顔にも。